「何の為にお前を引き取ったか、わからないの!」

 ディナー(というには、そのメニューはあまりにもお粗末だが) の席で大声をあげたのはフライ男爵夫人。
 彼女の声は耳にキンキンと響いて不快極まりない。


 この人がこんな風に騒ぐだろう、とわかっていたから。
 ミシェルはウェズリーと別れたことを3ヶ月以上も黙っていたのだ。


『ミシェルを何の為に引き取ったか』なんて、改めて言われなくてもわかっている。
 フライ男爵は、平民のメイドと駆け落ちした兄の娘ミシェルを金の為に養女にした。


 幼い頃に母は亡くなって、ミシェルはずっと自分には父しか居ないのだ、と思っていた。
 父の存命中には1度も会ったことがなかった叔父夫婦は、父の葬儀に遅れてやって来た。