「一応狙ってアッパーを繰り出したのですが、
ランドール王子殿下が隙だらけだったので、たまたま命中しただけなんです」


 緊張し過ぎて、ついアッパーと言ってしまって。
 この世界にはボクシングというスポーツは存在
していなかったので、ご令嬢方に説明するときは『下から殴って』と説明していたのに。


 何故か、アビゲイルは頷いた。
 その上『じゃあ、こんな感じ?』と、両手を構えてアッパーカットの身振りをして見せたので。
 ……ロザリンドは気付いてしまった。


 王太子殿下の婚約者。
 アビゲイル・フロイド・グレンフォール。
 彼女は転生者かもしれない。


 試しにもう一度、さりげなく言ってみる。



「殿下はガードが、がら空きでしたから」

「でしょうね、この世界の男ときたら……」


 ご機嫌に言いかけたアビゲイルが急に無言になった。
 この世界の男、と。
 話し過ぎた、とようやく気が付いたのだろう。


 それからの彼女は上品な公爵令嬢の顔に戻った。