王国の有力貴族、コルテス侯爵の愛娘である
ロザリンドは今夜がデビュタントの乙女だ。

 そんな少女を、わざと皆が見守る会場からさらったのだ。
 国王陛下の父も侯爵には気を遣っているのを知っていた。
 多分彼女が俺の……『おいた』の最後になる。


「夢のようなひとときを君にあげるよ」

 ランドールがいつもの決まり文句を甘い声で囁くと。


「そんなのは、要らねー!」

 怒鳴ったロザリンドのアッパーが下から、ガードがら空きの王子の顎に入って。
 彼はよろめいて廊下に座り込んだ。
 その上にロザリンドは馬乗りになり、彼の襟元を掴んでいた。


「臣下に殴られる悪夢のようなひとときを殿下に差し上げますよ」

 ロザリンドからのアッパーカットで脳が揺れて意識朦朧となっていたランドールは、追い付いたオスカーにそう言われて3発殴られた。


 コルテス兄妹が。
 特に妹が武闘派だ、と巷で言われるようになるのは……
 この夜からだった。