お互いに気に入って、うまく事が運べば……。
 オスカーはこの馬車で、ご令嬢を邸宅までお送りせよと母から命じられるのだ、という事が。


 だが、それは母(とお相手の母親) が目論んでいるだけだ。
 オスカーはどんなご令嬢を引き合わされても、ときめく事はない。

 1ヶ月後の祭りの夜に仮面をつけたミシェルと出会うまで、彼は恋を知らない設定にしてあったからだ。
 それはホナミだったロザリンドが決めた設定だ。


 義兄の縁談についてはその設定があるゆえに、それほど心配はしていなかったが、気持ち的にはやはり面白くなかった。
 それに当のオスカーも強引とも言える顔合わせについては、気が重いようだ。


「ロージーの記念すべき夜なんだから、もうそれだけでいいのに。
 こんなお膳立ては……」

「前々からお義兄様のご縁談を早くまとめたい、とお母様は仰っていましたけれど……
 私の婚約破棄のとばっちりみたいで、申し訳ないですわ」


 3ヶ月前までロザリンドには婚約者が居て、今夜のドレスの試着も彼に見せていた。
 元婚約者のウェズリーはミシェルに愛を囁いていたのに、ロザリンドにも優しくて、
『記念の夜にエスコートをするのが楽しみだな』なんて、調子よく言っていた。


 当然、デビュタントのドレスに合わせた花やアクセサリーはウェズリーの瞳の空色のもので揃えていたけれど。