『こんな世界に来たくて来たんじゃない』とミシェルは言っていた。
 元々はセレブだった、とも言っていた。
 前世の彼女は多分幸せなリア充だったのだろう……


 だが『これから王太子と恋に落ちるから』と恋人だったウェズリーを捨てた。
 彼女は納得出来ないながらも、ちゃんとストーリー通りに進める気があるのだ、と思った。


「食堂での事、聞いたよ。
 大丈夫?」


 帰りの馬車で。
 オスカーに気遣われた。
 あの騒ぎを誰かに教えられたのだろう。


「はい。大丈夫です」

 最近はこんな会話ばっかりだ、と思いながらロザリンドは答えた。
 大丈夫? とオスカーが聞いて
 大丈夫です、と自分が答えて。


( 婚約破棄が心の傷になどなっていないと、
オスカーにきちんと伝えないと)


「ウェズリーが君を庇ったらしいね?
 あいつ、まだ君の事が好きなんだな」

「いいえ……そう見えただけで、私じゃなくて
ミシェル嬢を庇ったのです」


 ロザリンドがきっぱりはっきりとそう断言したので、オスカーはその話を続けるのは止めた。
 そして、本日の授業や友人の話を始めたので、ロザリンドは相槌を打ったり、笑ったりした。