むしゃくしゃする気持ちが顔に出そうになり、
落ち着く為に廊下へ出ると、こちらに向かって
優雅に歩いてくるアビゲイルがいた。

 彼女もオスカーに気付いたようで、周囲の令嬢達に断って微笑みながら近付いてくる。

 アビゲイルや王太子に対して含むところなど無かったが、向こうはいきなり現れたオスカーを、疎ましく思っているのかも知れない。



「おはようございます、オブライエン様」

「……おはようございます、フロイド嬢」


 相変わらず美しいカーテシーを見せつけてくるひとだ。
 学苑で、こんな挨拶をする令嬢は他にはいない。


 微かに下げていた頭をアビゲイルは上げて、意味ありげにオスカーの手首に巻かれたリボンを見た。


 この公爵令嬢はやはりおかしな女だと思うオスカーに、彼女は令嬢らしくないニカッとした笑顔を見せた。


「貴方、ミカミさんでしょ?
 私はチカ、ササキチカ。
 覚えてるよね? とぼけないでね?
 このままややこしい事になる前に、ここらで、はっきりさせない?」