ただ彼から……シュウジから。
 解放されたい、そう願っていた。




 目的の温泉地まで後1時間くらいです、とミカミがトイレ休憩で寄ったSAで言ったので、到着するまで眠ることにした。


 バスに揺られると眠くなる質だったが、ファンの方達が居るのに眠るわけにいかない、と我慢していたのだ。


「もう到着だけですし、着いたら着いたで各部屋をチカ先生と挨拶に回っていただきますので、
1時間だけですけど、ゆっくりお休みになって
くださいね」


 カフェオレのカップをホナミに差し出しながら
ミカミが微笑んだ。
 マスクをしているので、微笑んでいるのか本当はわからなかったが、見えているメガネの奥の瞳は優しげに細められていた。


 ミルクや砂糖の増減を設定出来る自販機のカフェオレだが、その味はホナミの好みにドンピシャで。
 そのカフェオレの甘さと温かさがホナミの気持ちを和らげていく。


 シュウジから一泊だけでも離れて眠れることが
嬉しかった。
 最初はホナミの言動に腹立ちを見せたシュウジだったが、近頃は彼女に関係のない仕事や人間関係の鬱憤をホナミにぶつけるようになってきていたから。


 それでホナミは眠った……深く深く。
 いきなりの衝撃に、目を覚ますまで。