約束の時間に迎えに来た馬車に乗り、オスカーの友人グレンジャーの邸宅へ向かう。


 オスカーはいつもの彼に戻っていた。
 今朝までの、不安に押し潰されそうな自信なさげな彼ではなかった。

 以前の、年齢より大人びた冷めた表情の義兄とも少し違う、柔らかな印象を受けるようになったのは兄のダンカンと和解出来たからか。
 それとも、恋を知るようになったからなのか。 


 馬車に乗り込んでからも、オスカーは向かい側から優しい眼差しをロザリンドから外さない。
 今朝とは違うふたりの関係を、自分の隣に座る侍女にまだ知られるわけにはいかない、とオスカーは馬車に乗る前にロザリンドに言ったのに。


「今日ウチに戻ったら義父上と義母上に話すから、それまで俺は……」

 俺は義兄なのだ、と最後まで言わなかったが。
 彼は繋いでいた彼女の手をぎゅっと握ってから、離した。



 つい、さっきまで。
 ふたりは何度もキスをした。

 ロザリンドの唇に、髪に、瞼に、頬に、掌に。
 オスカーは口付けた。