『兄上』と、呼び掛けたのは何年ぶりだろうか。
 幼い頃は『兄様』と、甘えた。
 初等部に入ってからは『兄上』、思春期を迎えて家族に素直になれなくなって『ダンカン』と。  
 生意気に名前で呼んだ。



「それを聞きたいのは俺の方だよ。
 お前には酷いことをした。
 ずっと謝りたかったけど……今年やっと警備隊に選抜されたから会いに来れたんだ。
 偶然に見かけて追いかけたけど、まさか貴族のお前が祭りに居るとは思わなかったし、久しぶりだからお前だと確認する為に、声をかけずにしばらく後をつけていた。
 こうしてお前の義妹や友人とも会えて良かった。
 ……ふたりだけだったら何を話していいか、実は悩んでいたんだ」

「……」

「今でも落ちていくお前が……
 信じられない、って俺を見ている顔が……
 夢に出てくる。
 無事で……残るような傷が無かったことが、今でも……
 本当に申し訳なかった……許してくれ」


 今までとは打って変わって、静かに途切れ途切れにダンカンは話した。
 その手は細かく震えていた。