今日は祝日で学苑はお休みだ。
 城下では昼前から華やかに祭りが始まっていた。


 今夜の事が頭から離れない。
 それなのにどう行動すればいいのか、何事も決断できない自分が歯痒い。



 オスカーはこんな男ではないのに。
 既に名前も顔も浮かんでこないひと。
 そのひとが夢見るように語った理想の男。
 それだけは覚えている。


 いつも、どんな時も。
『オスカーだったら、こうする』
『オスカーなら、こう言う』
オスカーだったら……オスカーなら……


 それが12歳からの、この世界を生きていく為の指針になっていた。
 完璧にオスカーになろうとして常に努力した。
 いつも、どんな時も。


 だが、今ではその指針が見えなくなっていた。
 唯一の心の拠り所にしていた1枚だけのメモは、余りにも何度も取り出しては握りしめてしまって。
 出来が良くないこの世界の紙はボロボロになりかけている。