しまった! バカは、つい出てしまった。

 幼い頃からウェズリーのバカな振る舞いやアホ発言に接していて。
 彼女の心の中では婚約者は馬鹿者だったので、つい出てしまった言葉だった。


 ウェズリーが立ち上がり、ロザリンドに腕を伸ばしてきたので
『殴られる!』と彼女はあわてて椅子から立ち上がった。


「バカと言ったな!」

 普段温厚なウェズリーの顔が別人のように歪んでいた。


 あぁ、やってしまった。
 人に、特に男性には面と向かって罵倒だけはしないように、と気を付けていたのに。
 彼の目の前では理解のある振りをして、お父様に相談してウェズリーを懲らしめて欲しい、と助力してもらうつもりだった。


 例え不貞を犯されても、それが侯爵令嬢らしい処し方だとわかっていたのに。
 例え不貞を犯されても、少し懲らしめたら、そのままこの婚約は続くのだ、と。


 これから私は、この男に殴られる。

 パニックに襲われたロザリンドは、ウェズリーに腕をつかまれ、彼の方に引っ張られた途端に気を失った。