「そんな! まだまだ話し足りないのに?」

 やっとチカ先生と会えたのに、もうお別れすることになるのか、とロザリンドは呆然とした。


 アビゲイルは来年王太子妃となり、その先はこの国の王妃陛下になる。
 王城で顔を合わせても、もう私達の間には何人もの人間が居て。
 それでも、あの頃の思い出があったなら、これからも何度でもふたりだけで話せる機会をアビゲイルは作ってくれたはず。


 彼女が前世の記憶を無くしてしまえば、ロザリンドはただコルテス侯爵令嬢として扱われるだけになるだろう。
 ふたりきりのお茶のテーブルに招かれることも無い。
 もう二度と真正面から王太子妃アビゲイルの。 
 彼女の緑の瞳を見つめることは出来ない。


 今日会えたのが、チカ先生に会える最後になるのかもしれない。