『お互いに前世の名前を書かない?』 
 そう提案してきたのはアビゲイルだ。


 場所はやはり前回と同じ、グレンフォール公爵家の温室。
 様々な緑や咲き誇る花のむせ返る香りのなかで
開かれた、アビゲイルとロザリンドのふたりきりのお茶席だ。

 メイドも給仕も下がらせて。
 他の人間の目も耳も、ここには存在しない。


ー『乙花』の件で、お話があります ー と。

 自分から手の内をさらけ出したロザリンドは、
アビゲイルが私も転生したのだ、と直ぐに打ち明けてくれるのだと思っていたが。


 王太子殿下の婚約者で、筆頭公爵家のご令嬢であるアビゲイルは、それ程脇が甘い人間ではなかったようだ。
 自分の立場や身分を弁えて、不利になるような
真似は軽はずみにしないのだろう。