と、その時。
――榊くん!――
頭の中にまだ余韻の残るその声が、今度は明確な輪郭を持って聞こえてきた。
はっとしてそちらに顔を向ければ、ぼやけた視界の中に、必死な顔でこちらに駆け寄ってくる小坂の姿を見つけた。
「こ、さか……」
「榊くん、こっちに……!」
手を引かれるまま柵を越えると同時に、俺はへなへなとアスファルトの地面に座り込む。
そんな俺を、小坂は迷いのない手で抱きしめた。
ぎゅうっと強く抱きしめられて、たしかな温度に触れて、自分がここに在ることを実感させられる。
「榊くん、榊くん……」
「……死ぬのが怖くなった……」
ぽつりとこぼれた声を、小坂はゆっくり抱きしめる。
「ありがとう、生きていてくれて……」
「え……?」
「ずっとひとりで闘ってたんだね。苦しかったね。踏ん張っていてくれて、ありがとう」
耳の近くで紡がれる声が俺を真正面から肯定してくれる。
心の鎧がぽろぽろと剥がれ落ちていく。


