こちらに向かって飛んできた声に、俺は再び足を止めていた。
聞き覚えのあるその声に、背筋にひんやりとしたなにかが走り抜ける。
「綾部……」
その声の主である綾部は、バスケをしていた輪を抜け出し、俺の前に駆けてくる。
綾部は、中学で同じバスケ部に所属していたチームメイトだ。
特別仲が良かったわけではないけれど、知らない仲ではない。
中学の時の事故を知っている人に接触しないためにわざわざ今の高校を選んだというのに、まさかこんなところで遭遇してしまうなんて。
苦い思いで立ち尽くしていると、見たことのないジャージに身を包んだ綾部が、品定めでもするように俺のつま先から頭まで視線を走らせる。
そのすべてを見透かすような不躾でぎょろっとした目が、俺はあまり得意ではなかった。
「久しぶりじゃん」
「……ああ」
「最近なにしてんの?」
「最近は……なにも」
視線を逸らし、暗に話す気はないことを示す。
けれど綾部の口は止まらない。
「え? バスケは?」
──逃げたい。
「怪我してから、してない」
「部活は?」
──消えたい。
「いや、なにも、してない」
「なんで」
──叫び出したい。
「熱中できるものとか、なくて」
「もしかして、まだ事故のこと引きずってんのか?」
──もうむりだ。
「……ああ」
「おいおい、まじかよ。情けねぇな……、情けねぇ」
ひくっと右の頬が引き攣ったのがわかった。
負の感情が心の中に暗雲となってたちこめる。


