そんなこっちの困惑なんて小坂は知る由もなく、先にベンチに座りお弁当の風呂敷を広げ始めている。
「もう待ちくたびれちゃったよ。お腹ぺこぺこ」
「わ、悪い」
「じゃ、いただきまーす」
急かされ、小坂の隣に腰を下ろす。
なんとなく流れで座り、持っていたサンドイッチにかぶりついてはみたものの、心の中のわだかまりは解消されないままだ。
「おいしいね」
「ああ。……なぁ、小坂」
「ん?」
「その、付き合ってるのか? 日下部と」
思い切って尋ねると、小坂はきょとんと目を丸くし、それから吹き出すように笑った。
「日下部くんと私が?」
「告白されてただろ。聞いちゃったんだ、今朝」
「そうなの?」
こんな時、なんて言うのが正解なのだろう。
乏しい女子との会話経験から、ここは褒めるべきなのだろうと予測する。
ぎしっと、心のどこかが錆びたような音をたてるのを聞きながら。
「いいんじゃないか。日下部とはお似合いだと思う」
すると、眉尻をあげむっとした表情の小坂に、いきなり鼻をつままれた。
「痛……」
「それ、次言ったら絶交だよ。榊くんは女子の気持ちをわかってなさすぎる」
「わ、悪い……」
鼻をさすりながら、言われている意味もわからないまま反射的に謝る。
「それに告白は断ったよ。私、好きな人いるし」
「え? 好きな人がいるのか?」
「うん、世界で一番かっこいい人」
ぱくぱくと箸を動かす手を止めないまま、さらりと放つ小坂。