小坂はそこで伏せていた長い睫毛を持ち上げ、俺を見た。


「榊くんは小さい頃、なにになりたかった?」


静かなトーンで放たれたその言葉に、俺ははっとする。


小坂は胸の中にある思いを言葉にしてくれた。

それはきっと信頼の証なのだろう。

だから俺だって、胸の中のしこりを打ち明けるべきだ。


けれど、まだ鮮血を流している胸の傷が疼く。


話すのが怖い。

まるで逃げられない現実に否応なく向き合わなければいけないようで。

だから今までこの話はだれにもしてこなかった。


けれど話してみようという気持ちになったのは、小坂とずっと一緒にいて、脳が甘く毒されていたからだと思う。

なんでも受け止めてくれる小坂のふところの大きさに寄りかかってみたくなった。


膝の上でこぶしを握り締め、そして震える唇を開く。


「……俺は……バスケ選手になりたかった」


けれどやはり現実はうまくいかない。

自分が発した言葉に、自分がくらう。

傷の触れ方がわからないから深手を負う。

口に出したことを今更後悔しても手遅れだ。


なりたかった。

いや、今でもこんなにもなりたい。

ならなきゃいけなかった。

だって、バスケで成功しない自分の価値は、どこにある?