そうして校舎の中を、校庭を走り抜け、小坂が足を止めたのは駐輪場だった。
「じゃじゃん。私の愛車です」
ひらひらと手を動かしお披露目されたのは、一台のママチャリだ。
そして小坂が当然のように自転車の荷台にまたがる。
「ほら、榊くんも乗って。榊くんが運転手だよ」
まさか、俺が運転しろと? 荷台に小坂を乗せて?
規律違反になるのはもちろんだけど、女子とそんな密着するようなこと、してもいいのだろうか。
立ち尽くしたまま困惑していると、小坂が自転車のサドルをとんとんと叩いて俺を促す。
「ほらほら」
……多分、小坂を前にして考えすぎるというのは有効ではないようだ。
もう、どうとでもなれ。
そんな投げやりな思いでサドルにまたがり、走り出そうとした時。
「あ! おい、そこ! 自転車のふたりのりは禁止だぞ!」
案の定、校庭の方から怒声が聞こえてきた。
そちらを見れば、その声の主はよりにもよって厳しいと有名な教頭だった。
その厳しさは生徒指導の高桑を凌ぐほど。
なんて最悪なタイミングだ。
「まったくお前たちは! どこのクラスだ!」
教頭が威圧するようにずかずか大股で迫ってくる。
すると、俺の背後で小坂が声をあげた。
「あ! 先生、あんなところに空飛ぶ肉まんが!」
いやいや、そんな子どもだましにもならないような嘘に引っかかるわけが……。
「なにっ?」
……うそだろ。
教頭が足を止め、視線が逸れると、小坂がすかさず俺の背を叩いた。
「榊くん、早く、今のうち!」
呆気にとられていた俺は、小坂の声に背を押されるようにして、ペダルを思い切り踏み込んだ。


