それからすべてのプリントを綴じ終えたのは、30分ほど経った頃だった。
時々軽い会話を交わしながらも、お互い集中して作業に没頭した。
「ふう、明るいうちに終わったね」
小坂は、達成感に満ちた表情でプリントのタワーを見つめている。
「ありがとな、小坂。助かった」
だれかとふたりきりなんて気まずいと思ったけど、なぜか小坂とはそうはならず、空白を埋めようと必死になることもなかった。
この肩の力が抜ける感じは、なんなのだろうか。
「いいえ。楽しかったよ」
俺がスクールバックを肩にかけると、「じゃ、帰ろっか」と小坂が俺に手を差し伸べてきた。
けれど俺はわからない。
その言葉の意味も、差し出された手の意味も。
「帰ろっかって、俺も一緒にか?」
まさかと思ったけど、そのまさかだったらしい。
「そうだよ。一週間の先取り、みたいな?」
そう言って小坂は、宙に浮いていた俺の手を掴んだ。
あっと思う間もなく、俺の体は小坂に連れられ走り出していた。
「ちょ、小坂……!」
「早く早く!」
だれもいないがらんどうな廊下をふたりで走る。
きゅっきゅとリノリウムが擦れる音は、ふたり分だ。


