けれど小坂は俺の前で後ろ手を組むと、改まったように真摯な眼差しを向けてくる。
「だれといるかは自分で決めるよ。まわりなんて関係ない」
毅然としたふうにそこまで言って、小坂はふっと表情を緩めた。
まるですべての棘をも包み込んでしまう柔らかさに、つい一瞬見惚れかける。
「やっぱり榊くんは優しいね。私のことばっかり考えてくれて」
「そうか?」
「うん。捨てられてるネコを見つけたら、迷わず連れて帰るタイプだよね」
「それは、たしかにそうだな」
あいにくそういう状況に立ったことはないけれど、捨てネコなんて見つけたら放っておけるはずがない。
だけど、そんなことを言うなら小坂の方がよっぽど優しいと思う。
優しさとは、受け手側が優しさとして受け取って初めて成り立つものだ。
どんなに善意を丸く固めて手渡したって受け取られなかったら、それはただの善意の押し付けになってしまうのだから。
「でももう自分のことを、自分なんかなんて言うのは禁止! 榊くんの一週間は私のものなんだからね。この一週間のことは、すべて私に主導権があるのです」
「そう、なのか……?」
「そうだよ」
気づけばすっかり小坂のペースに乗せられている。
けれどどことなく親しみやすさすら感じてしまうのは、彼女自身が持つ愛嬌のせいだろうか。
偏見と言われればそれまでだけど、こういうキラキラしたタイプの人は常にまわりを見下していそうな気がして、いつもなら敬遠するのに、なぜか彼女は嫌味な感じがしない。
「ふたりでやったら早く終わるよ。ちゃっちゃと終わらせて、一緒に帰ろう」
「え?」
「よし、じゃあ、決まり」
最後にさらっと付け加えられた言葉に気をとられている間に、小坂は前の席の椅子を反対側に向けて、そこに座った。


