「プリント綴じをしてたところだ」
「すごい量だね。これ、全部ひとりで?」
「ひとりでやる方が楽だから」
驚いたように訊いてくる小坂に、俺は間を置かずに答える。
好きでやっているのだと強調するように、ぎこちなく下手な笑みつきで。
もし仕事を押しつけられていると受け取られたら俺の心配をさせてしまうということは、出会って2日という短い付き合いの中の経験則でわかっていた。
すると小坂が思いがけないことを申し出た。
「私も手伝うって言ったら迷惑かな」
俺は目を見開いて、小坂を見つめる。
自分でしておいてなんだけど、こんな仕事をしようとする人の気が知れない。
「……や、迷惑ではねぇけど……。地味な仕事だぞ?」
「うん! 大丈夫」
「でも俺が勝手にやってることだし、帰りも遅くなるし」
「遅くなっても大丈夫。門限はないよ」
「転校初日で疲れてるだろ」
「全然! 元気だよ」
「それに……こんなところにいていいのか? 俺なんかといるより、クラスの奴らとつるんでた方がいいだろ」
その方が小坂にとって有意義な時間になるに決まっている。
それに俺と一緒にいるところを他の奴らに見られたら、彼女がどんなありもしない下世話な噂で着飾られるかわからない。
小坂は俺とは違う。
クラスの中心でみんなに囲まれにこにこ笑っているべき存在だ。
清らかな小坂が悪意と好奇に満ちた噂の的になるのは、なんでだか無性に許せなかった。


