「終わったら、榊の教室に置いておいてくれていい。明日の朝回収しにいくから」
「はい」
言葉少なに要件を引き受け、俺はプリントの束を抱えて職員室を出た。
全校生徒の数×3ということで、紙の質量は目に見えるよりもっとずっしりとしていた。
紙に視界を邪魔されながら廊下を歩いていくと、時折クラスメイトたちがすれ違っていく。
けれどみなこちらにちらっと一瞥くれるだけで、なにも言わずに通り過ぎていく。
――“透明人間”。
それが俺を表すぴったりの言葉だった。
透明人間の居場所はどこにあるんだろう。
そんなことをぼんやり頭の端っこで考えながら、教室に着く。
教室を出た時にはまだ数人の姿があったのに、すでにもぬけの殻になっていた。
1年生の教室は1階にある。
このプリントの束を抱えて階段をあがるのは、ひどく腰が折れることだっただろうから、ちょうどよかった。
入学して初めて、教室が1階にあったことに感謝する。


