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放課後。俺は職員室で、生徒指導の教師・高桑の前に立っていた。
そしてデスクの上には、大量に積まれたプリントの束。
「3枚1セットで右上を綴じてくれればいいから」
プリントの内容とは、次の朝礼の時に全校生徒に配られる、夏休みの注意事項とやらだ。
3枚にも及ぶ注意事項なんて、一寸も目を通す気にならない。
「本当にひとりで大丈夫か? 結構量あるぞ」
「いえ、ひとりで平気です」
「そうか? じゃあ、よろしく頼むな、榊」
高桑が、どっしりとした動きで俺の肩に手を置く。
高桑は一目で生徒指導の教師だとわかるくらいには、ごつくて強面だ。
綺麗に刈り上げられた坊主頭がいっそうそのイメージを際立たせているに違いない。
その見た目通り、校則違反をしている生徒にはひどく手厳しい。
そんな高桑とどうして面識があるのかといえば、入学して間もない頃、校庭に散らばる桜の花びらの掃き掃除をしている高桑に手伝いを申し出たからだった。
その時からなぜか目をつけられてしまい、ことあるごとに声をかけられるようになり、頼まれごともよくされるようになった。
俺のことは、仕事を頼んでも断らない暇な奴、くらいの認識でいるに違いない。
けれど人目も気にせず廊下で堂々と声をかけてくるから、まわりには俺が校則違反をしたに違いないと思われるきっかけになっているということには、高桑はきっと気づいていない。


