「小坂は?」
形勢逆転。
畳みかけるように質問を繰り出していた小坂に代わって俺が問えば、小坂は目を丸くし、きょとんという擬態語が似合いそうな表情を浮かべた。
「お互いのこと知る機会なんだろ。俺にも教えて、小坂のこと」
まっすぐに小坂の目を見てそう告げる。
けれど小坂は驚いたように大きな目を見張ったまま、うんともすんとも言わない。
「小坂?」
そっと反応を促せば、我に返ったように小坂がくしゃりと表情を崩して微笑んだ。
その頬がほんのり紅くなっているのは、きっと見間違いではない。
「……嬉しくて」
小坂が長い髪を耳にかきあげながら目を伏せて、恥ずかしそうに続ける。
「その……私に興味をもってくれたことが」
ぐうの音も出なくなるとは、こういうことを言うのだろうか。
まさか、そんな初心な反応をされるなんて。
照れる小坂を見ていると、こっちにまで照れが伝染する。
なんで彼女はこんなにも、俺のたった一言で感情を動かしてくれるのだろう。
ころころと豊かに表情を変える小坂から目が離せなくなる。
「こんな私のことでよければ、どうぞ、なんでも聞いてください」
かしこまったように深々と頭を下げられ、俺の方が背筋が伸びる。
「それじゃあ、まず誕生日から」
こうして俺たちは、お互いのことを知るために自己紹介をし合った。
こんなふうにだれかに歩み寄ることも歩み寄られることも初めてで、ずっと胸のどこかがこそばゆかった。
突然現れて、音もなくすっと胸の中に入り込んできた小坂。
久しぶりに人と話したかと思ったらパーソナルスペースをぐいぐいと狭められ、最初は戸惑いを隠せなかったけれど、彼女の隣は不思議と居心地が悪くなく、むしろ心地よくさえあった。


