溢れそうになる卑屈な思いを押し込めていると、小坂は「ね、榊くん」と笑みを浮かべて呼びかけてくる。
からっとした晴れ間のように、さっき曇りかけた気配はもうない。
小坂の表情は百面相のようにころころ変わって、見ていてちっとも飽きない。
「なんだ?」
「お互いのことを知るために、今更だけど自己紹介しない?」
「自己紹介?」
「ほら。榊くんのこと、もっと知りたいし」
そう言うと、小坂が再び俺の隣に座ってきた。
ギシッと古いベンチが軋む音が微かにする。
隣を見ればさっきよりももっと近くに小坂がいて、心に緊張が走る。
少し動けば肩と肩とが触れてしまいそうだ。
けれど緊張など顔に似合わない俺は、必死に平静を装う。
当の小坂は微塵も知る由もないのだろう。
彼女が首を傾げた瞬間、ふわりと金木犀のような甘い香りが鼻孔をくすぐり、それがさらに緊張を助長させていることなど。
「今から質問ぜめするから覚悟しててね。まず、榊くんの誕生日は?」
俺に余計な口を開かせる時間も与えず、小坂が質問してくる。
「……4月17日」
「血液型は?」
「O型」
「好きな食べ物は?」
「カレー」
「嫌いな食べ物は?」
「納豆」
「特技は?」
ふと一瞬、頭の中でよぎった答えがある。
……けれどそれは、とうの昔の話。
「……ない」
「え?」


