その瞳の吸引力につられるようにして、
「小坂、」
言うことが頭の中にあるわけでもないまま、つい名前を呼んでいた。
すると「あ!」と小坂が声をあげて反応する。
「私のことは紗友って呼んで?」
できるものなら即答してやりたいところだが、それはなかなか難しい要求だった。
クラスの陽キャ集団の男子たちとはすっかり気兼ねなく下の名前で呼び合っているようだけれど、女子の免疫がついていない俺がいきなり女子を下の名前を呼ぶなんてハードルが高すぎる。
きっと彼女が考えているよりはるかに。
こんな場面で、クラスの連中との圧倒的な力差を思い知ることになるなんて。
「……や、さすがにほぼ初対面で下の名前では呼べない」
頭をかき視線をそらしながらそう呟く。
すると小坂はそれまでとは打って変わりぎこちなく唇の両端を持ち上げ、無理やり取り繕ったような曖昧な笑顔を浮かべた。
「そっか……。わかった」
そこまでがっかりさせるくらいなら名前くらい呼べばよかったかと後悔する。
でもなんでそんなに下の名前にこだわるのだろうか。
俺なんかが名字で呼ぼうが、下の名前で呼ぼうが、大した問題ではないだろうに。
クラスに戻れば、小坂のことを下の名前で呼んでくれる男子はわんさかといるのだから。


