「は?」
咄嗟にその言葉を咀嚼することができず、ぽかんと彼女の顔を見つめたまま間抜けな声をこぼす。
そんな俺に対して、いいことを思いついたというように彼女はにこにこと笑みを浮かべたままだ。
「私に君の一週間を預けてみない?」
まるでわかりやすく言い換えたようだけれど、それは俺にとって効果なしだった。
新手の勧誘のようだ。
彼女の意図するところがまったく見えない。
けれど長い睫毛に縁どられた瞳が、意思の強さを裏付けている。
「なんでそんなこと」
「君に興味が湧いちゃったから。それだけの理由じゃだめかな?」
そして彼女が立ち上がる。
栗色の髪が風にふわりとそよぐのを、俺はなんとなくぼんやり見つめていた。
そんな俺に向かって、彼女は声高らかに宣言した。
世界中の男子がうっかり恋に落ちてしまうような、眩しい笑顔で。
「だから勝負だよ。死にたい君と、君を死なせない私で」
俺は不覚にも目の前の光景に見惚れたまま、ほんの数秒言葉を失っていた。
あれよあれよという間に俺の一週間を預ける上に、奇妙な勝負をすることになっている。
こんな時、どんな反応をするのが正解なのだろうか。
多分、「そういうわけにはいかない」と反論するのが相場なのだろう。
けれど残念ながら、俺には断る理由が見当たらなかった。
引き受ける理由もないけれど、断る理由もない。
……となれば、俺には首を横に振ることはできなかった。


