すると紗友が、言葉を手繰り寄せるようにおずおずと口を開く。


「ねぇ、ひとつ聞いてもいい?」

「なんだ?」

「悠心は、いつ私のことを好きになってくれたの?」


言葉の端々に見える照れと躊躇いと切実さ。


その問いに向き合うため、俺は居住まいを正すようにひとつ呼吸を置く。


「俺も昔の話になるんだけど、小学生の頃、俺ちょっといじめられてただろ。泣き虫だって」


小さい頃の俺は情けないほど弱かった。

喧嘩なんかよりもままごとをしている方が好きだったし、紗友より背が小さく、非力な弱虫で、いじめられっ子にもされるがまま。

歯向かうことなんて、まったくできなかった。


「そんなこともあったね。同じクラスの向井くんだっけ」

「そう。睨んでないのに、『睨むなよ』っていちゃもんつけられて、教室で突き飛ばされてさ。そしたら紗友が後ろから向井に飛び蹴りして助けてくれて。『悠心をいじめたら許さない!』って怒ってくれたんだ」

「うそ、恥ずかしすぎる。忘れて」


紗友が照れたように慌てるから、俺は思わず笑ってしまう。


いつもは清楚な紗友が突然飛び蹴りなんてするもんだから、クラス中がぽかんとしてたっけ。


「紗友、かっこよかったよ。かっこよくて、強烈なくらい眩しかった。それが俺の中の一番古い記憶。その時からもうずっと紗友のことが好きだった。紗友は俺の世界の中心で、太陽だった」


君はいつだって俺を認めてくれるけど、紗友こそ俺のヒーローだ。