そうして昼食を食べ終えた俺たちは、紗友の部屋のベッドの横に並んで座っていた。

ライトだけをつけた静かな部屋で、手を重ねながら寄り添い合う。

そうしてお互いの存在を感じながら静寂を共有していると、その沈黙を紗友が破った。


「ねぇ、覚えてる? 小学校の行事で山登りした時のこと」

「ああ、覚えてる」


紗友の言葉をきっかけに揺り起こされるひとつの記憶。


小学校低学年の時、隣の県にある山に学年全員で登るという行事があった。

坂の勾配が激しく、小学生の足では大変だったことを覚えている。

そして下山しようかというところで、野生の野ウサギを追いかけた友達を探しに行って、紗友が迷子になってしまった。


「私が道に迷って泣いてたら、悠心が私を見つけて、おぶって下山してくれたんだよね。自分だってくたくたなはずなのに、そんな顔ひとつ見せずに私を励ましながらおぶって歩いてくれて。悠心はいっつもそう。自分のことなんか後回しで、相手のことをまず第一に考えて思いやれる。そんな悠心はずっと、私のヒーローなの」


大切な記憶を紐解くように、紗友が温度のある声で紡いでいく。

その声はいつもより甘く、切ない響きで、俺の鼓膜をそっと揺らす。


「そんな、俺は……」


ヒーローなんて、とてもじゃないけど身の丈に合わない。

けれど紗友に真正面から肯定されると、ちょっとだけ背が伸びて目線が高くなって、自分を少し認めてあげられるような気がする。