「それじゃあ紹介します。入ってきて」

「はい」


担任に呼ばれ、初夏の風と共にひとりの女子が教室に入ってきた。


どうでもいいと投げやりにぼやけていた視界に彼女が映った途端、突然ピントが合い、目を見張る。


「……あ」


頬杖をついた手から顎がカクンと滑り落ちた。

思わず間の抜けた声が漏れる。

一瞬、あんなにうるさかった蝉の声が聞こえなくなったと錯覚した。


栗色の長い髪に、黒目がちな大きな瞳の彼女が、教卓の横に両足を並べて立つ。


転校生として現れたその女子とは、昨日出会った女だった。


「うわ、めっちゃ可愛くね!?」

「やば。俺、タイプかも……!」


男子たちの潜めた声が聞こえてくる。

男子が盛り上がるほどの容姿であることは間違いなかった。


「初めまして。小坂紗友(こさかさゆ)です。よろしくお願いします」


透明感を持ち合わせた細いソプラノが、教室に響き渡る。


見慣れた高校の制服に身を包んだ彼女は人懐っこい表情でクラス中を見回し、そして俺と目が合うとなぜか楽しみを見つけたようににこっと笑みを深めたのだった。