「げっ、」



忙しく動き回る街の人たちとの生活で忘れていた忌ま忌ましい記憶が一気に心の奥底から浮き上がってきてあたしを過去へと引き戻す。


見なかったふりをしよう。
ブーツは汚れるけど脇に避けて車を通せば何ごともなかったことになる。
どうせ夕方にはあたしが帰って来たことは村中に広まるんだ。
わざわざ広めることをするまでもない。

汚れることにも構わず脇に避け、ドライバーと眼を合わせず下を向いて通り過ぎるのを待った。


あたしの後ろで停まっていた車がゆっくりと動き始め、ホッとしたのもつかの間。

あろうことかあたしの目の前で停まったのだ。


内心舌打ちをする。
有り得ない、避けたんだから先に行けばいいのに。

あたしのこと気付いて、この仕打ち?
………迷う必要なんてない、絶対あたしだと知ってのことだ。

沸々と込み上げる思いを抑えるのであたしの顔はきっとひどい顔。