キッチンから声だけが聞こえる。コーヒーをすする音も聞こえる。
こっちにきて座ればいいのに、口に出しかけたときふと思い当たってあたしは手を動かした。



「いいか、」

「いいわ」



やっぱり。
日頃から化粧支度を見られたくないわ、とぼやいていたあたしへの配慮だったのね。


ソファーの背もたれに両腕をかけた翔太と鏡越しに目があった。



「おはよう、」

「…………ルージュ塗るのは待っとけと言うべきだったな」



え、っと振り返ると簡単に唇を奪われた。体の奥から昨夜を思い出させるような疼き。

喧嘩してたのが嘘みたいに翔太は甘い。すごく甘いわ。



目を開けても翔太の目から離せない。吸い込まれるような深い深い目。

ふっ、と翔太がゆっくりと瞬きをしたからようやく開放された。
視線を下にずらすと翔太の唇に微かに付いた淡いピンクのルージュ。
すごく煽情的で。翔太があたしの顔を見ているのがわかるけど目が逸らせない。瞬きすらも惜しくて。


ちらりと見えた舌がルージュを舐めとったのは色っぽくて、かぁーっと体温が上がる。



「まだ、お互い足りねぇよな」



そんなこと言われたら止まらないわ。