マーメイド・セレナーデ

「香坂さん？」

「え、あ、はい？」

「ねえ、さっきの人とどういう関係なの？」



鋭い視線に、高校時代を思い出す。

狭い世界の中でも彼と一緒にいるあたしはよく目の敵にされたものだ。
それも一時で、すぐにあたしと翔太のことを理解してくれる人たちだったけれど。

それに。
あたしの中でももうあたしは翔太のもので、翔太もあたしのものだと心のどこかで自負していたのかもしれない。
恐れる者など何もない、と。



彼女の視線のなかに翔太に対する感情がありありと見受けられて、どう答えたものか。


そこにいるだけで人の目を集めてしまう翔太、一時の感情で終わればいいのにそうもいかない人たちもいる。
もしかしたらこの目の前の同僚は後者かもしれない。



「知り合い？…………もしかして、彼氏？」



曖昧に笑っていたら店長がコホンとあからさまにせきをしたから彼女はそそくさと仕事に戻っていた。



「誰にも言わないから、安心して」

「は？どういう……」



すれ違いざまに店長が言った言葉はよく意味が分からなくて聞き直そうと思う前にお客さんが並んでタイミングを逃してしまった。