マーメイド・セレナーデ

「店長？」



未だに翔太に目を奪われている店長に話し掛けると名残惜しそうに翔太から眼を離す。
あたしは、そんな様子に胸の奥でちりちりと焼け付くような名を付けるには簡単で、でもそうと名付けたくない、感情を覚える。あの頃では、感じなかった想い。

あたしに向き合ってる最中でもちらちら翔太を見ていてため息が出そうになった。



「ごめんなさい、もういいわ。戻っていいわよ」



感情を表に出さないように、気張っていたというのに。
店長のその一言で、はっと気が緩んだ。


店内に戻るとさっきよりも女性のお客が増えた気がする。
みんな手には服を持ってるけど実際、意識は全てある一点に集まってる。


ちりちりと焦がすようで、落ち着かない。
今なら喧嘩したことも忘れて、翔太のそばに行きそうだわ。


だけどそんなこと出来るわけない。
あたしたちの間には、甘い一時というのはあまり流れないから。