マーメイド・セレナーデ

顔も洗って、タオルで拭き終えた翔太が振り向いたときあたしはもう一度、なんで、と聞いてしまった。


どうして今日になって言うの?



「なんで、っつってもいきなりだったし、忘れてたんだよ。仕方ねぇだろ」



アイロンを持ち直して、あたしの背後に立つと徐々にストレートになっていく髪の毛。翔太にかかればなんでも綺麗にこなす。
ストレートが好み、とこの前言ったように、鏡に映るその顔はあたしにとって照れ臭いもの。

髪を触る手が気持ちいい。髪の毛一本一本に翔太の想いが伝わるみたいで指先から伝わる感触をしっかりと刻み付ける。


終わり、と洗面所を出ていったあと、今日から3日間翔太と会えなくなることを思い出してまたショックを受けたあたしはその場に固まったまま。



「遅刻すんぞ、ほら」



鞄とコートを持ってあたしを玄関まで追いやる。
追い立てられるままにパンプスを履いて、振り返って翔太を見上げた。

ん、となんの不安もない顔で促してる。



「なにもないわ………。いってきます」

「んじゃな、」



頭を撫でて、さっさとリビングに戻ってしまった。ドアの向こうに消える背中を見ながらどっちがいってきますなのかわからないわ、と内心ため息をついた。