カオスの海に溺れるサカナは眠れない夜に夢を見る

 前の恋をアンインストールするには、新しい恋をインストールするしかない。そんな事を考えながら、自分本位な答えを口にしていた。

 「ちょっと考えさせて?」

 「……わかった」

 賀正はまるで自己暗示をかけるみたいに頷いて、繋いでいた手をさり気なくほどいた。

 「罰ゲームとはいえ、今日は付き合ってくれてありがとな」

 いつもの口調に戻った賀正に、少しほっとする。

 「罰ゲームのわりに、アタシも楽しかったし、こっちこそありがと」

 「俺の言った事で、あんま悩むなよ? お前の答えがノーでも、変わらず友達いてやるから安心しろ。じゃあな」

 言い逃げもいいところで、賀正は悪戯な眼差しでアタシに頭ポンポンをすると、振り返る事もなく駆け出して……その場にひとり残されたアタシの心は、罪悪感の波にみるみる侵食されていった。