大きなアクアリウムの中を沢山の魚が泳いでいる。群れをなす魚や小魚を見向きもせず、泳いでいるサメ。その水槽に映し出された私達の姿は、高校生じゃないのに制服を着て、付き合ってもいないのに手を繋いで……カオスだ。

 いつになく大人しい賀正の横顔を盗み見る。その視線に気付いた賀正は、らしくもない薄い笑みを浮かべると、眼差しをゆっくり逸らして、横顔のまま口を開いた。

 「俺……仁那のこと好きなんだ。だから……」

 意を決した眼差しをこちらに向ける。

 「俺と付き合って欲しい」

 いきなりの告白だったにも関わらず、そこまでの驚きはなくて、どこかでその気持ちに気付いていながら、自意識過剰だとも思っていた。

 「……仁那の返事は?」

 何も答えられずにいると、遠慮がちに賀正が顔を覗き込む。賀正の事は嫌いじゃない。でも「好きか」と聞かれたら言い(よど)む。その「好き」という感情が、恋愛に絡むのなら尚更。「恋人になる」という、その意味合いに考え(あぐ)む。

 忘れると決めて終わらせたはずの恋が、ズキズキと(うず)き出して、アタシの答えを惑わせていた。でもそれはあまりにも、不毛な恋。触れられる距離にいながら、その体に心に触れる事は、許されないはず……だった。だから、アタシは離れた。離れる決意をした。大学進学を理由に上京したのは、そんな複雑すぎる恋とサヨナラしたかったから……