ある日、遊びから帰宅したアパートの玄関に、見慣れない靴が2人分あった。ひとつは男物、もうひとつは女物。リビングから出て来た母さんに、小声で尋ねる。

 『誰か来てんの?』

 『李斗に紹介したい人が来てるの』

 どこか緊張した面持ちの母さんの後を追うようにリビングに行くと、スーツを小奇麗に着こなしている40代くらいの男と、その隣に、俺より少し年上であろう女が、制服を着て座っていた。肩にかかる明めの髪は巻かれ、うっすらと化粧もしている。

 部屋に漂っている気まずい空気の中、その女と目が合って、俺は軽く睨みつける様に視線を外した。

 『あのね、李斗……』

 言いかけた母さんを制して、男が口を開いた。

 『突然驚かせてすまないね。藤咲克実(ふじさきかつみ)と言います。隣にいるのは、娘の仁那です。今日は李斗くんに、お母さんとの再婚をお願いしに来たんだ』

 『再婚!?』

 眉間に皺を寄せながら、急いで母さんを見ると、申し訳なさそうに、小さく俯く。いつかはこんな日が来る事も、想像しなかったわけじゃない。でもそれは俺の中で、まだ先の話だと、勝手に思い込んでいた。