「……よろしくお願いします。」
こんなことしか言えない自分に嫌気が差
すけれど、僕にはこれが精一杯だった。美
玲さん夫婦は、僕の言葉に対して笑顔で、
こちらこそと言い、初対面の挨拶は終わっ
た。お手伝いさんは、その光景を見なが
ら、僕に最後のお別れの挨拶をして去って
行った。僕の目を見て、
「椿さんにとっては新しい家族かもしれ
ませんが、私から見たら、この方々が椿さ
んにとっての家族だと思います。色々と思う
ことはあるかもしれませんが、椿さん、ど
うか受け入れてください。」
この言葉が僕にとって忘れられないもの
となった。
新しく住むことになった家は、高層マン
ションの最上階の角部屋でとても景色の良
いところだった。今まで住んでいた家も3階
建ての一軒家でそこそこ立派な家だったは
ずなのに、ちょっと次元の違うところに来
たという感覚に陥った。



