向かったのは病棟のカンファレンス室。
普段は患者やその家族に病状説明をするときに使うことが多い部屋。

「座って」
なぜだろう、明日鷹先生の声がいつもより硬い。

私は促されるまま椅子に座り、明日鷹先生も向かい合って座る。

「桜子先生」
「はい」
「君の素直で優しいところは長所だと思うよ。けれど、感情移入しすぎるはダメだ」
「でもさっきは、私が止めないと、翼くんもお母さんも危険でした」
間違ったことをしたつもりは無いと、言い返した。

ふうー。
困ったようにため息をつく、明日鷹先生。

「それでも、やり方があるでしょう?僕たちは医者だから、そこの所をわきまえなさい」

やり方って言われても、ただ必死だった。
翼くんは興奮していたし、点滴に手をかけていた。
あのままでは翼くん自身に危険があった。

「納得できない?」
そう聞かれて、
「・・・」
私は返事をしなかった。

しばらくの沈黙の後、さらに冷たい表情になった明日鷹先生。

「何が間違っていたのか分からないようでは、話にならない。今日みたいな様子じゃ、主治医として患者を任せられない。もう1度自分で考えてみなさい」
初めて聞く厳しい口調。

それだけ言うと席を立ち、明日鷹先生は部屋を出て行った。
この日、私は初めて叱られた。