春。

私たちは派手な結婚披露宴は行わず、ささやかなパーティーを開いた。
場所は紗花の旦那さんが経営するホテル。
参列者は父さんと母さん、紗花、大地、明日鷹先生のご両親とお兄さん方。
あとは親しい友人達。

私も真っ白なドレスを着せてもらい、明日鷹もタキシード。
すでにかなり大きくなっているおなかを気遣って、ゆったりしたデザインのドレスを選んだ。

そして、もうすぐパーティーが始まる頃、明日鷹が私の控え室に現れた。

「桜子これ」
差し出したのは小さな花束。

「なに?」
花束に添えられたカードの名前を見て、驚いた。
「これって・・・」

『飯田啓介』
そう書かれていた。

「気になっているだろうと思ってね」
そう言うと、明日鷹が私の手を取った。

「彼も更生してちゃんと人生を歩いているよ。もう大丈夫」
「明日鷹」
何で、何でこんなに優しいんだろうか。

確かに、啓介のことは気になっていた。
でも、言えなかった。
啓介のことでは明日鷹にも迷惑をかけたから、気にならない振りをずっとしていた。

カードには、私と明日鷹の結婚を祝うメッセージと、感謝の言葉が綴られていた。

「ごめんなさい」
明日鷹の気遣いに、ありがとうではなくてごめんなさいと言ってしまった。

「桜子。僕は君が好きだよ。不器用で、一生懸命で、空回りして傷つくこともあるけれど、それでも前を向く君に惹かれたんだ。飯田啓介のことだって、良い感情ばかりではないけれど、今の君を作り上げた一部として認める」

ああ、私はなんて素敵な人と出会ったんだろう。

出席者が立会人となる人前結婚式。
みんなの笑顔に包まれて、
その日、私は森桜子になった。