「ごめん。てっきり桜子が私に黙ってついて行く気なんだと思ったから」
「いいよ。でも、本当に何も知らない」
何も聞かされていない。

彼は・・・明日鷹は、私に黙って海外へ行く気なのだろうか?
それに、紗花は私が彼について行くと思っていた。
確かに、海外赴任となれば仕事をやめてついて行くか、離ればなれになるか、選択しなくてはいけない。

不意に、お母様の言葉が頭をよぎった。
妻と、母と、仕事。
キャリアを犠牲にする時が、こんなに早く訪れるなんて・・・

紗花は1時間ほどいて帰って行った。
私に余計なことを吹き込んだとひたすら謝っていた。

私はスマホを握りしめて、時間を過ごした。
途中、明日鷹からのメールが何度か来たが、自分からは何も言わず当たり障りなく返した。

こんな時、「どうなってるのよ!」なんて素直に言える性格ならいいけれど、私には無理。
昔付き合った彼氏にも、「お前はどうしたいの?気持ちが伝わってこない」ってよく言われたっけ。

ああー。
この先どうなるんだろう?

結局、悶々とした気持ちのまま眠れずに朝を迎えることとなった。