夕方。
明日鷹先生のマンション。

「桜子。俺が何を怒っているか分かってる?」
長い沈黙の後、明日鷹先生が聞いてきた。

「妊娠のことを隠していたから?」
「うん。それもある。でもそれ以上に、桜子が苦しんでいるときに側にいてもやれなかったことが悔しいんだ。君が苦しんでいるときに側にいるのは俺でありたい」
「・・・」
私は何も答えられなかった。

気がつくと明日鷹先生が私の隣に座っていて、肩にそっと手を置いた。

「子供のことは桜子1人の問題じゃないはずだろ?」
「・・・ごめんなさい」
やはり、謝る言葉しか出てこない。

確かに、妊娠の事実に驚いてしまって先生の気持ちや赤ちゃんのことを思う余裕がなかった。ただ、明日鷹先生の負担になりたくないとしか考えられなかった。
おなかの赤ちゃんも1人の人間なのに・・・
小児科医として、いや、母親として最低だ。