その日の夕方、俺は剛を呼び出した。
場所は病院近くの居酒屋。
7時を過ぎて、駆け込むように剛はやってきた。

「遅くなってごめん」
席に着くなりビールを注文し、ネクタイを緩める。

「俺の方こそ、急に呼び出してごめん。忙しかった?」
「いや、そうでもないよ」
言いながら、メニューに目を落とす剛。
なんだか、目を合わそうとしない。

一通りつまみを注文し1杯目のビールを飲み干した後、俺は切り出した。

「最近桜子に避けられている気がするんだ」
「へえ」
「電話しても素っ気ないし、会いにも来ないし、出かけようと誘っても出てこない」
「へー」

「何かあるのかなあ?」
「俺に聞くなよ」
なんだか不機嫌そうな返事。

「お前なら何か知っているかと思ってね」
「・・・」
剛は答えない。

「本当に、何もないのか?今日も職員食堂で2人を見かけたよ。いくら上司と部下でも、分け合って食べるとか・・・おかしくないか?」

ハハハッ。
笑い出す剛。

「笑うな」
「ごめんごめん」
ひとしきり笑った後、剛は不意に真顔になって真っ直ぐ俺を見た。

「何で俺に聞くんだよ。本人に聞けよ」
「分かってる。俺だって相手がお前でなかったら、桜子に聞くよ。でも、お前は桜子とは別の意味で特別なんだ」
「何だよ。男に告白される趣味ないぞ」
あくまでも、剛は俺の話を茶化そうとする。

「なあ剛、話せよ。何があるんだ?」
俺もいい加減限界なんだよ。