「桜子、ほらテーブル片づけて」
今日も店は満員で、休む暇もない。
「ハイハイ」
ったく、人使いが荒いんだから。
母さんに指示され、私は手を速めた。

私は、鈴木桜子22歳。地元の医大に通う大学4年生。
今は小料理屋を営む母との2人暮らし。
5歳の時に両親が離婚し、私は母と、4歳上の兄は父と暮らすことになった。
同じ町に暮らす兄とは今でも行き来があるけれど、忙しい父とは滅多に会うこともない。
それでも寂しいと思ったことはなくて、私は母さんとの暮らしを気に入っている。

「お待たせしました。カレイの一夜干しと、揚げ出し豆腐。本日の煮物です」

料理が自慢の店だけあって、出てくる料理はすべて母さんの手作り。
お客さんたちも、それを目当てに来る人が多い。

「水割りをください」
剛君ではないほうの男性から声がかかった。