世間ではクリスマス。
残念なことに私と明日鷹先生は予定が合わず、今年のクリスマスは会う予定がない。

ブー ブー。
スマホが震える。

んん?
見覚えのない番号。

「もしもし」
幾分怪しみながら電話に出る。

『もしもし。桜子さん?』
どうやら私にかかった電話らしいけれど・・・
「はい。鈴木ですが・・・」
『私、栗林有香です』
えええ?
「有香さん?」
『そう。お久しぶり』
何だか凄く元気そうな声。

お元気ですか?って言いかけてやめた。

「お久しぶりです」

仕事中と言うこともあり長話は出来なかったけれど、電話で聞く声は以前と変わりなかった。
用件は『2人で会いたい』と言うもので、私も喜んで応じた。

「では、明日伺いますね」
「待ってます」


栗林有香(くりばやしゆか)さん。
35歳。
明日鷹先生の幼馴染。
私が初めて会ったのは、去年の秋。
かかりつけの病院で、胃がんの診断を受け明日鷹先生に相談に来ていた。
しかし、その時すでに進行癌で、化学療法では抑えきれず手術は出来なかった。

そして、最後に会ったのは今年の3月。
自宅謹慎中の私にわざわざ会いに来てくれて、「もう迷わないわ。残された時間を大事に生きる」と言っていた。
夏の終わり、有香さんが入院したと明日鷹先生から聞いていたけれど、その後の近況は知らない。