「鈴木先生。それは、検査３時間前に処方していただくはずの薬ですが」

うっ、マズイ。
みんなが私を見ている。

「どういうことですか？」
「何があったんですか？」
「検査はどうなるんですか？」
エンジニアも、家族も、鋭い視線を私に向ける。

もう隠してはおけない。
どう取り繕っても、検査は遅れてしまう。
隠せない以上はきちんと謝ろう。
そう思って一歩踏みだし、頭を下げようとしたとき、
「遅くなって、申し訳ありません」
剛先生が入ってきた。
なぜか、いつもの優しい小児科医の顔。
私も、一瞬目が合った。

「説明が遅れてすみません。午後から機嫌が悪くて、心配だったので少し様子を見ていました。安定したので、処置を再開します。少し遅れますが、検査は行いますので」
剛先生が、穏やかな笑顔をみんなに向ける。

「どのくらい遅れますか？」
不満そうなエンジニア。

「２時間くらい遅れると思います。患者さんの体が一番だから、ご理解ください」
それ以上は、誰も何も言えなかった。