「桜子先生。来て」
家族も帰り申し送りも終わったところで、私は呼ばれた。

NICUの片隅に置かれたデスク。
いつもは当直の先生達が使う作業スペースの前まで来て、振り返った剛先生が私を見る。

「先生は本当にここでやっていく気があるの?」
それは、あまりにも厳しい言葉。

当然私は「はい」と返事がしたいが・・・今はできない。
今日の私の態度は小児科医として最低だった。
悩み苦しむ家族に追い討ちをかける様な事を言ってしまったのだから。
私はただうなだれて、頭を下げる。

「今日はこれで上がっていいから、もう1度きちんと考えてみなさい」
それだけ言うと、剛先生は仕事に戻っていった。

私はどこまで子供なんだろう。
気を緩めると泣きそうになるのをグッとこらえ、駆け足NICUを出た私は着替えを済ませて職員駐車場へ向かった。

約束をしたわけでもないし、何時までの勤務なのかも知らないけれど、今日みたいな日は会って声が聞きたい。
私は近くのベンチに腰掛けながら、明日鷹先生を待った。