「桜子」

手を振りながら駆け寄ってくる和泉紗花(いずみさやか)は、中学から大学まで一緒に過ごした親友。
今は私と同じ大学病院で外科の研修医として勤務している。
そして、今日は私と紗花の救急当直デビューの日。
受験やレポートで徹夜をしたことはあっても仕事で朝まで起きているのが初めての私は、とっても緊張していた。

「じゃあ、行こうか」
「うん」

聴診器、ライト、メモ帳と・・・。
持ち物を確認して、私は紗花と共に救急外来へ向かった。


「君が鈴木先生で、君が和泉先生だね?」
初めての勤務であいさつに行った私達に、救命部長が声をかける。
「「はい。よろしくお願いします」」
二人でそろって頭を下げた。

「まず、軽症の患者を診てもらったらいい。指示を出す時と、カルテを転帰する時には上級医に確認してもらうこと。あと、分からないことはその都度聞いてください。いい?」
「はい」

メモを取りながら注意事項を確認し、私達は救急外来で診察を始めた。

ここは医大の付属病院だけあって、救急外来も広い。
待合側には軽症者用の診察室が7つ。
その奥には広い処置スペース。
さらに奥へ行くと、救急車の搬入エリア。
屋上ヘリポートから直通のエレベーターも完備している。

しかし、救急とは言っても命の危険がある患者はごく一部で、ほとんどは軽症者。
私が診たのも、便秘で腹痛のおじいさんと風邪で熱の出た子供と飲食店の厨房で火傷したコックさん。
みんな元気に帰って行った。