電車に揺られながら、目を覚ます。
寝ていたのか…
もう昼になっていた。着くにはまだまだだな…。

着いた…。
「疲れたぁ。」
ずっと座っていたからか妙に疲れてしまった。
久し振りだな。
一面田んぼになっていて、さっぱりしている。田舎だが、ド田舎ではない、だが決して都会とは言えない、ようなところだ。
…何も変わってないな。
暗くなってしまった、宿に行くか…

「宿 さわの」と、書かれている看板が置かれている。ここも、変わってないのか。
もう遅いな、寝るか。
温泉に入りたかったが遅くなったため渋々諦めた。やっぱり、ここの人は夜滅多に外にでないのか。
あの言い伝えがあるからな…。

小さい頃の記憶はあやふやだが、祖母にあることを教えてもらったことは覚えている。

「いい子にしていないと、鬼様に連れ去られるよ。外に出ても、連れ去られちゃうかもよ。だかぁら、100年に1度嫁さんをあげるんだよ。」
そんなことをいっていた気がする。
嫁さん…。
この嫁さんには僕は関係がある。
僕の家系は代々嫁さんを捧げていたのだ。
でも、子供が僕だけで女の子はいないから、僕の家族は…
追い出されたんだ。


鳥が騒がしいと感じ、目が覚めた。
…騒がしいのは鳥だけじゃなかった。
起きて宿のおばさんに話を聴いた。
「お兄さん、知らないのかい…祟りだよ、祟り。嫁さんがあげられてないから鬼様がぁ、怒ったんだよ。それで、ゆいちゃんが…連れ去られたんだ…」
少し、魂が抜けた感覚に犯されていた。
「教えていただき有り難う御座います。」
「いいんだよ。気を付けてね。」
きっと其のときの僕の顔はぐにゃんぐにゃんだったかもしれない。
自分をもっと嫌ってしまった。僕が男じゃなかったら。なんて、思ってしまった。
朝の太陽がじんじん肌を刺激する。同時に自分も責められているような気分だった。


川沿いの草むらで寝てしまっていたようだ。
汗だくだった。暑い。とにかく暑い。
アイスを頬張りたくなり買いにいこうとした。
「あの。」
ドキッ、とした。心臓が激しく動揺した。
「何ですか?」
と、落ち着き答える。
「ここの人じゃないですよね?もしかして…」
ドキンドキン。
「言い伝えについて調べに来たんですか?」
ドキン!!一気に魂が抜けたような感覚に犯された。同時に何故か妙な不安にも駆られた。ドキンドキンドキンドキン、心臓がずっと、うるさく速く鼓動を打っている。
「それが、何か」
震えた声で吐いた。
「手伝わせてください!」
えっ、と驚きの余りつい呟いてしまった。
連れ去られたゆいっていう子僕の妹なんです、と彼が言う。
彼への申し訳なさが心を埋めた。
「妹が、無事かどうかを確かめたいんです、、。」
「勝手にしたら。」
彼は満面の笑みではいっ!と言った。
僕の事をわかれば、彼は嫌うだろう。
それでも、一人よりはいいだろう。
言い伝えを確認することと、ゆいさんの安全の確認"それだけ"で、済むなら。